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2009年 10月 11日

運動不足気味なのでウォーキングがてら 御堂筋 Kappo を見に行った。それだけ。


昨日ユニバーサル・ミュージックのクラシックの取り扱いが情けないということを書いたが,ちょうど8日付朝日新聞朝刊の “Leaders as Reader ―リーダーたちの本棚―” という全面広告(6面)に同社 CEO 兼会長で RIAJ 会長の石坂敬一氏が出ていて次のような記述があった。

デジタルの世界に親しむ若者には「着うた」で気軽に試聴してもらい、気に入った楽曲はフルでダウンロードしてもらう。そのためのヒット曲作りは当然の努力であり、それがパッケージの購入にもつながる。ただし圧縮技術を使う音楽配信は音質面でCDに劣り、長時間の楽曲も合いにくい。「デジタルからはピンク・フロイドやマイルス・デイビス〔引用者注:インプロヴィゼイション(即興)や綿密に構築された長時間の楽曲の象徴として挙げた名前であろう。〕は出てこない。クラシックのような音にこだわる大人の音楽もフィットしにくい」と石坂氏は言う。

これはもう “パッケージ信者” としか言いようのない,「まずパッケージありき」の発言(一部氏の言葉でなく記者(?)によるものも含まれるようだが)だ。その誤った見解を2点ほど指摘する。

まず,「音楽配信は音質面で CD に劣る」という点。これは音楽配信が必ず圧縮(しかも非可逆圧縮)されたデータによって行われることを前提としており,誤りである。FLAC のような可逆圧縮によるも,無圧縮によるも,音楽配信はできる。実際,坂本龍一氏はその公式サイトで,アルバム “Out of Noise” を 48KHz 24bit AIFF形式 という CD よりもむしろ高音質のデータで有償配信している(通常の音楽 CD は 44.1KHz 16bit WAV形式)。それ以外にも,特に海外のアーティストには高音質配信をする者がある。

次に,「配信は長時間の楽曲やクラシック音楽に適さない」というのもおかしい。むしろデータのほうが,時間の制限がない(データを蔵置する媒体によるが,今や一般的な micro SD カードでさえギガバイトが普通で,CD の700MBよりも容量ははるかに大きい。)。

Re-divided by Acts

実際,現在 CD で流通している楽曲でも,そこに収録された音源をデータにすることでむしろようやく本来の姿で聴けるものだってある。実例を示そう。 ヴァーグナーの楽劇やその他の作曲家の歌劇は,CD によってしばしば幕を分断される。例えば “ニーベルングの指環(Der Ring des Nibelungen)” 第2夜 “ジークフリート(Siegflied)” は3幕の楽劇だが CD では4枚だ(参照写真。これはアナログ・レコード時代に録音されたものゆえなおさら収録時間の制限があるが,他の CD 時代のものでも同様に分断されている。)。すなわち,楽曲は本来つながっているところで分断されて CD に収録されている。

私はこれらの CD をいったん全部リッピングして,WAV形式のデータを幕ごとに再編集し(場合によってはクロスフェードなども使って),改めてキュー・シートでトラックやインデックス情報を入力し,これを可逆圧縮データに変換して,最終的には幕ごとにマトリョーシカ・オーディオ(MKA)にまとめている。これにより,各幕はそれぞれ切れ目なく再生することができる。ここ(右側)に表示した画像でも,第1幕の総時間が「1:22:21(1時間22分21秒)」となっているのがわかるだろう。ほかにも,本来なら幕間のない “指環” 序夜 “ラインの黄金(Das Rheingold)” を 2時間25分48秒もの間切れ目なく演奏できるのだ。

これでおわかりだろう。配信ないし配信されるデジタル音源データが長時間楽曲に合いにくい(向かない)というのは,完全な偏見だ。氏の発言の趣旨が,「ケータイでチマチマとダウンロードさせるには,高音質ないし長時間の容量の大きなデータが向かない」というのであれば,百歩譲って話はわかる(これとて配信の前提をケータイにしている段階で気にくわないが)。しかし上記引用では,そこが明確にされていない。むしろ,「デジタルからはピンク・フロイドやマイルス・デイビスは出てこない」 という発言からは,「デジタル音源データそれ自体を“悪”」とする考えさえ垣間見える。

こうした重要人物によるこのようなミスリードは見逃されるべきではない。「音楽配信」や「(媒体によらない)デジタル音源データ」にどのようなものがあるのか,その多様性なり状況をきちんと理解させた上でそれでもなおパッケージの優位を説くのが筋だろう。……それとも,会長さまは CD の収録時間を超えるような長時間の幕の楽劇などご存知なかったのでしょうかね? そういえば,上記の “指環” のディスクは貴社の前身ポリドールからリリースされていたのですが,現在の貴社のウェブのカタログには掲載されていないようでありますな(笑)。

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この記事へのコメント [1件]

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関堂幸輔
Posted on 2009-10-13, 09:11:37 JST

この記事を書いたあとで考えていたんだけど,ユニバーサルがその気になって,例えばこの“ニーベルングの指環”あたりの幕ごとにまとめられたデータを有償配信すればそれなりに売れると思うんだけどな。

もちろん,可逆圧縮か無圧縮,できれば坂本龍一さんのするような高音質で。もともと“指環”のCDセット15枚組が4万~5万円だったから,ブックレットとかを省いてもう少し安くして(歌詞対訳とかは別途ダウンロード販売してもいい)。

ま,でも石坂氏の目の黒いうちは,そんなビジネスを社員が考えたとしても実現しなさそう(悲観的)……。


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