音楽、ちゃんと聞こえてる?

投稿者: | 2025-03-08

前回、アップルの AirPods Pro を用いたヒアリング・チェック(聴力検査)とそれに基づく補助機能によって、ここ数年聞こえなくなっていた音が聞こえるようになり、音楽を聴くのがまた楽しくなったことを述べた。興味を持ってくれた方も少なからずいたようだが、では実際、ご自身がどれぐらい音楽を聴けていないのか、ここではいくつか Qobuz と Spotify でサンプルを掲げたので、よければ試聴等してみて是非この機会に知ってもらいたい(その他の音楽配信プラットフォームをご利用の方はご面倒だがそれぞれ検索してていただきたい)。

まずは前回も紹介したヴァーグナー(Richard Wagner)のオペラ “タンホイザー〔パリ版〕Tannhäuser [Pariser Fassung])” だ。トラックとしては2曲目になっている序曲から第1幕へと続くところ、Spotify では当該トラックの開始時からトライアングルとタンブリンが演奏されているが、2分44秒辺りから急にオーケストラが静かになりカスタネットが現れる。Qobuz ではアカウントを持っていてログインした状態でもここではサンプルしか聴けないようだが、そのサンプルが始まって比較的すぐだ。こういう打楽器の音は、ポピュラー音楽などでオンマイクで録られた音であれば比較的聞こえやすいが、オーケストラの中にある場合はなかなか難しい。

ほかに有名どころでは、スメタナ(Bedřich Smetana)の交響詩 “わが祖国Má Vlast)” の中でもとりわけ有名な第2曲 “ヴルタヴァ〔モルダウ〕(Vltava)” も、終始トライアングルが鳴っている。

次に、やはり高い周波数が甲高く響く音となると「楽器」と言えるかどうかは微妙だがメトロノームはどうだろう。近代以降の作曲家リゲティ(György Ligeti =注:出生はハンガリーなので「氏・名」の表記が本来だが後にオーストリアに亡命しているので印欧語族式にした)の100台のメトロノームのための楽曲 “ポエム・サンフォニックPoème Symphonique)” がある。メトロノームを100台使うという点だけで注目されがちだが、きちんとレコーディングされたものを是非聴いてもらいたい。約20分にも渡るが、配置によって微妙に異なって聞こえる音、そしてそれぞれの響き、各メトロノームが徐々に停止していって最後にテンポ60(=1秒に1拍)だけが残る――高域がよく聞こえていないと、これらの音が不鮮明になってしまう。

ほかにも聞き取りにくい楽器という点では、ウインドチャイムが挙げられる。ここからはポピュラー音楽で、ウィンドチャイムをはじめいくつかの打楽器が入っているトト(Toto)の2018年のライヴ盤 “40 Tours Around the Sun” の9トラック目 “Lea” だ。Qobuz のライブラリーにはないようなので、Spotify のみで(高音質で聴きたいという方は CD やブルーレイでもどうぞ)。

以上で紹介しているのはどちらかというと高い周波数が中心となっている音なのだが、実は高音域が聞き取りにくくなると低音の聞こえ方にも影響が出る。すなわち、音には「基音」と「倍音」があって(詳しくは省略するが)、とりわけ非整数次倍音を多く含む音のうち一定の倍音が聞き取りにくくなるとその基音がわかりにくくなることがあるのだ。レゲエ(とりわけそこから派生したダブ)やヒップホップなどといったジャンルのベース音はそうした傾向が強い。実際、ダブ・レゲエのリキッド・ストレンジャー(Liquid Stranger)の2007年のアルバム “The Invisible Conquest” から5曲目の “Drop Sacrifice” を聴いていただきたい。やはり Qobuz ライブラリーには同作品がないので Spotify のみで。

いかがだろう? 冒頭21秒辺りからベースが現れるがその後少しして聞こえるカッティング風のコード(和音)ときちんと合って聞こえるだろうか? もし調子外れに感じたのであれば、それはちゃんと倍音を聞き取れていないということだ。

上記のいずれもしっかり聞こえているという方は、まだまだ耳が若い。他方どれかが聞き取りにくいというのであれば、「難聴」ではないと判定されているとしても高音域の聴力が落ちているということだ。そういう方に改めて問う――満足に音楽を聴けていますか?

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