巻頭言
昔から音楽が好きで、憚りながらそれなりに相当数の音源(レコード、CD、配信等)を所有しているが、中でもいわゆる「ライヴ盤」が好きだ。実際に観客が入ったコンサート(公演)を収録してそれを納めた「ライヴ盤」、私がなぜそれを好むのか、そしてそもそも「ライヴ盤(ライヴ・アルバム)」とはどういうものか、まずこのコラム(カテゴリー)の 巻頭言 として語っておきたい。
ライヴ録音とライヴ盤
音を有形的に固定(=録音)してそれを好きな時に再生できるようにするという技術が始まったばかりの頃は当然ながら「一発録り」をするほかなく、いわば録音はすべて「ライヴ録音」だったわけだ。しかしその後、録音した音を編集(当初はテープの切り貼りだったが)できるようになったり、複数のチャンネルを使って多重録音ができるようになったりすることで、演奏者は、楽器ごとに別々に録音し、何度か録音した中から気に入ったテイクを選んで収録し、あるいは納得が行くまで録り直すことができるようになった。これが「スタジオ録音」または「セッション録音」として、録音、ひいては音源のスタンダードになる。他方「一発録り」は、もっぱらナマの公演のための録音ということになり、これが「ライヴ録音」、そしてその音源を納めたものが「ライヴ盤」ということになった。
本当の「ライヴ」?
もっとも、「一度にすべての楽器や声を録音する」という意味では確かに「一発録り」ということにはなるが、とりわけポピュラー音楽にあっては音響システム(マイクやミキサー)や録音機材の発達によって、「スタジオ録音」と同様に楽器や声その他の音ごとにそれぞれチャンネル(トラック)を割り当てて別個に録音することが可能になり、当然ながらチャンネルごとに後から編集(音を消したり録音し直したり)するのも難なく行えるようになった。それゆえ、ライヴ録音として収録されている音に後で編集されているものが含まれるのかどうかは、アーティスト側がそれに関する情報を開示・提供していない限りわからない。中にはフランク・ザパ(Frank Zappa)のように多数の作品において “100% live, no overdubs” などと堂々と謳っているアーティストもあるが、上記のように録音・編集技術が発達した現代、一般ユーザーが音を聴いただけではそうそうわかるものではなくなっている。
とはいうものの、このコラムではさしあたり、アーティストが「ライヴ」と称して提供しているものは「ライヴ盤」として扱い、紹介していく。なお、昨今では音盤としてのレコードや CD ではなく、インターネット経由での配信によって提供される音楽作品も少なくないところ、より正確に表記するならば「ライヴ・アルバム」とか「ライヴ作品」とすべきかもしれないが、そうした配信データ等も含めてここでは「ライヴ盤」とする。
ライヴ盤の紹介とレビュー
今後このカテゴリー “Love Live Library” では、関堂が聴いた数々のライヴ盤を紹介し、レビューしていこうと思っている。アルバム(作品)のタイトル、アーティスト名といった基本的な情報の紹介はもとより、あくまで関堂の個人的所感になるが、そのライヴ盤の魅力をも伝えていきたい。またそれに伴って、「音質」「曲目」「演奏」「雰囲気」といった四つの観点からの評価もする。下記のように、評価は10個の星で示し「★」の数が多ければ多いほど高評価ということだ。
- 音質 ★★★★★★★☆☆☆ (7)
- 曲目 ★★★★★★★★★☆ (9)
- 演奏 ★★★★★★☆☆☆☆ (6)
- 雰囲気 ★★★★☆☆☆☆☆☆ (4)
そしてこれらの各項目の評価は、以下の基準に従う。
音質
録音、ミキシングおよびマスタリングによる音質の点を評価する。これはスタジオ録音でも同様だが、録音に関する技術や機材の性能が高くなったからといって必ずしも音がよくなるとは限らない。もとより、何が「よい音」なのかについては好みの問題でもあるが、最近のポピュラー音楽にありがちな、貧弱な音響システムや小音量で聴くのに適合させるべく音圧を異常に高めたサウンドではなく、オーディオの観点からも評価したい。評価にあたり、①帯域(frequency range):低音から高音まで広く音が出ているか、②ダイナミック・レンジ(dynamic range):音の強弱がきちんとバランスよくとれているか、③解像度(definition):(「分離能」とも)個々の音がきちんと聞こえるか、を基準とする。
曲目
ポピュラー音楽では、コンサートでの演奏曲目(セットリスト)が、いわばそのアーティストのその時の「ベスト」ということにもなろう(新作のプロモーションとして行うコンサートでは、当該新作を中心とした曲目になろうが)。したがって「ライヴ盤」は「ベスト盤」としての性格をも有している。ライヴの冒頭から最後(アンコールがある場合はそれも含めて)まで、どういう曲順で盛り上げているのか、新しい楽曲と古い楽曲のバランスをどうとるのか、往年の名曲をどのタイミングで出すのか、などといった観点から、曲目・曲順はそのアーティストのライヴ・コンサートの手腕が問われる要素の一つであろう。最近では「プレイリスト」スタイルで音楽を聴く機会が増え、「アルバム」の概念自体も失われつつあるが、アーティストが「この順番で聴いてほしい」というリストだと評価したい。
演奏
ライヴにおいては、演奏のテクニックもとりわけ重要だ。スタジオ録音では、上記のようにいくらでもやり直しが効くし、昔は誤魔化しづらかったヴォーカルにあっても近年では Auto-Tune に代表される機械的処理によって音程を補正することさえできる。さらに、スタジオ録音ではバンドのメンバーではなく実は代わりの腕利きミュージシャンが演奏してたという事例も少なからずある。しかしライヴ・コンサートでは観客・公衆の面前で当の本人がほとんど誤魔化しなしに演奏をするわけで、それを収録する(はずの)ライヴ盤でも演奏のクオリティが高く維持されているかどうかで評価したい。もっとも、前記のようにライヴ盤と称しつつも後から加工・編集されている可能性がないわけではなく、そうしたことが疑われる作品については多少割り引いて評価すべきかもしれない。
雰囲気
ライヴ・コンサートには観客がいて(2020年からしばらくは「無観客ライヴ」なるものも行われたが)、そこで彼らがアーティスト・演奏者と空気を共有することで何らかの化学反応的なものが生ずる。スタジオ録音ではなかった即興的な演奏がなされたり、観客とのやりとりがなされたりと、反応はさまざまだ。当然ながらその時のライヴ・コンサート会場にいればその空気を共有できるが、ライヴ盤ではそれをどこまで伝えられるか、というのが重要になってくる。月並みな表現になるが「まるでその会場にいるような」録音が理想(この点では「音質」の評価とも関連する)。またそれ以外にも、観客の反応やマナーに起因するその時々の状況がうまく収録されているか、といった点にも注目したい。
ピンバック: Kraftwerk “3-D The Catalogue” – M4