イヤホンとしての AirPods Pro はどうなのか?

投稿者: | 2025-03-26

先般 から アップルAirPods Pro(正式には第2世代の AirPods Pro =MTJV3J/A= を指し「AirPods Pro 2」と称されることが多いが、ここでは単に「AirPods Pro」と表記する)の聴力補助機能を積極的に使っているが、本来これはオーディオ機器たるイヤホンである。ではイヤホンとしての実力はどうなのか?――関堂なりにレビューしてみたい。

AirPods Pro & Momentum True Wireless 4
AirPods Pro(左)と Momentum TW 4

比較対象とするのは、関堂がかねてから使っている ゼンハイザー(Sennheiser) Momentum True Wireless 4(以下「MTW4」とする)だ。まずはスペック比較。

比較項目AirPods Pro 2Momentum TW 4
本体片方(H・W・D)のサイズと重量30.9×21.8×24.0mm, 5.3g24×23×30mm※, 6.0g
ケースのサイズ(H・W・D)と重量45.2×60.6×21.7mm, 50.8g70.1×44.6×34.8mm, 66.4g
形状(方式)カナルカナル
接続(Bluetooth)5.35.4準拠,クラス1,10mW(最大)
互換コーデックSBC,AACSBC,AAC,aptX,aptX アダプティブ/ロスレス,LC3
スピーカー(ドライバー)ダイナミック,11mm※TrueResponse ダイナミック,7mm
周波数特性20Hz~20kHz※5Hz~21kHz
防塵・防滴(本体)IP54(充電ケースも)IP54
バッテリー持続(本体)6時間(空間オーディオ等オフ)7.5時間(ANCオフ)
ケースへの充電USB-C またはワイヤレス(MagSafe,Qi)USB-C またはワイヤレス(Qi)
ノイズキャンセリングアクティブノイズキャンセリング(適応型)アダプティブ(Hybrid ANC)
外音取り込みあり(調整可)あり(調整可)
※非公表ないし非公式

このほかカラーリングは、AirPods Pro が白(White)だけなのに対し、MTW4 は “Black Graphite” と “White Silver” が当初からあり、最近になってさらに “Black Copper” および “Gold” が追加された(関堂が所有しているのは Black Graphite =写真参照)。アップルがあらゆるアイテムやデバイスについて統一感を持たせることを重視しているのはよくわかるが、選択肢があるという点ではさまざまな色があるのはよい。

問題の音質だが…… AirPods Pro は正直言ってズルい! AirPods Pro には 前々回 に紹介した聴力補助機能に付随して「メディアアシスト」という設定がある。下図にあるように、これは、AirPods Pro で行った聴力検査の結果に基づき、音楽や動画の再生および通話の音声を聞き取りやすくする機能だ。関堂の場合は2kHz以上が聞こえにくいので、当然そこを補って音楽を聴かせてくれる。それだから当然良く聞こえるに決まっている。低域から高域にかけてのバランスがバッチリなんだもの。

関堂がゼンハイザー好きだということを割り引いても、本来ならゼンハイザーのイヤホンのほうが良い音のはずなのだが……。確かに音の余韻や分離など、やはり MTW4 は AirPods Pro の上を行っていると感じる……が、メディアアシストされた音がよく聞こえる(「聞こえやすい」というのと「良音に聞こえる」というのと両方の意味)のだ。

聴力補助とメディアアシスト機能

MTW4 にも聞こえ方のカスタマイズはある。「パーソナライゼーション」というのがそれで、MTW4 をはじめいくつかのモデルに備わっており、アプリから調整を行う。下図はそのパーソナライゼーションの画面で、あらかじめ用意された音源を聴きながら青い丸印を動かしてユーザー自身で調整する。ご覧のとおり関堂は高音域をめいっぱい強く、他方低音域をめいっぱい弱く調整してみたが、やはり AirPods Pro におけるような聴力補助とメディアアシストには及ばない、というのが正直なところ。

MTW4 のパーソナライぜーション画面

また MTW4 には上記パーソナライゼーションとは別にバンド(帯域)別のイコライザー機能も備わっている。聴力検査の結果を基にこちらを調整することもでき、そのほうが自分の意図したように調整はできるが、もう少し細かく帯域を分けてほしいところ。こちらもやはりメディアアシストには及ばないと言わざるを得ない。

他方、MTW4 が備えている風切音防止機能は非常によい。ノイズキャンセリングの程度は少々減るが、屋外で使用する場合に風切音がかなり軽減される。AirPods Pro は、その形状ゆえかそれなりに風切音があって気になるところだ。なお、MTW4 の風切音防止は下図のようにアプリから設定するが、(通常の)アダプティブ・ノイズキャンセリングと風切音防止との切り替えがこのアプリ操作でしかできないのは少々不便だ。タッチコントロールによる操作のカスタマイズができるのにここは対応していない。せっかくなら、タッチでノイズキャンセルのオン、オフ及び風切音防止が順に切り替えられたらよかったのに(ファームウェア・アップデートでそうなることを長らく期待しているが、いまだにそうならない)。

風切り音防止機能
風切音防止は屋外で重宝する

ここまで来ると AirPods Pro に軍配を……ということになってきそうだが、最後の悪あがきで「究極の音質」を求めてみたい。それは…… AirPods Pro を両耳に装着した上でゼンハイザーのヘッドホン Momentum 4 Wireless をかぶせて聴く、というものだ。このときの注意事項としては、スマートフォン等から音楽をワイヤレスで送信する場合は、AirPods Pro とスマートフォン等との Bluetooth 接続はいったん解除しておいて、Momentum 4 Wireless と接続しておく必要がある(Momentum 4 Wireless を有線で聴く場合はこの限りではない)。当然ながら Momentum 4 Wireless のパーソナライゼーションやイコライザーはオフににして、帯域の補正は AirPods Pro の聴力補助機能に任せるのだ。

而して……これは凄いぞ! 文句のない音。Momentum 4 Wireless の 42mm 径ダイナミック・ドライバーで再生される音が漏れなく、加齢による高域の損失もなく耳に入ってくる。前々回 紹介したスピーカー経由で聴いたのと同等、あるいはそれ以上に感動だ! AirPods Pro と Momentum 4 Wireless とで合わせて買うと7万円以上にもなってしまうが……。

Momentum Wireless 4 on AirPods Pro
掟破り(?)のヘッドホン・オン・イヤホン

最後に、AirPods Pro に一つだけ注文したい。AirPods Pro はあくまでイヤホンだということもあるのかもしれないが、急に大きな音が入ってくるとリミッターがかかったように一瞬外音が消える。わかりやすい例としては、自らおおきなクシャミをした場合など、その瞬間いったん外音取り込みの音が消えるほど小さくなり、またじわじわと聞こえてくるようになる。音楽を比較的大きな音で聴いている場合にもどうやらこれは働くようで、ちょっと余計なお世話と感じることがない訳ではない。ファームウェア・アップデートで手動調整できるようにしてくれると大変ありがたいのだが……。

音楽、ちゃんと聞こえてる?

投稿者: | 2025-03-08

前回、アップルの AirPods Pro を用いたヒアリング・チェック(聴力検査)とそれに基づく補助機能によって、ここ数年聞こえなくなっていた音が聞こえるようになり、音楽を聴くのがまた楽しくなったことを述べた。興味を持ってくれた方も少なからずいたようだが、では実際、ご自身がどれぐらい音楽を聴けていないのか、ここではいくつか Qobuz と Spotify でサンプルを掲げたので、よければ試聴等してみて是非この機会に知ってもらいたい(その他の音楽配信プラットフォームをご利用の方はご面倒だがそれぞれ検索してていただきたい)。

まずは前回も紹介したヴァーグナー(Richard Wagner)のオペラ “タンホイザー〔パリ版〕Tannhäuser [Pariser Fassung])” だ。トラックとしては2曲目になっている序曲から第1幕へと続くところ、Spotify では当該トラックの開始時からトライアングルとタンブリンが演奏されているが、2分44秒辺りから急にオーケストラが静かになりカスタネットが現れる。Qobuz ではアカウントを持っていてログインした状態でもここではサンプルしか聴けないようだが、そのサンプルが始まって比較的すぐだ。こういう打楽器の音は、ポピュラー音楽などでオンマイクで録られた音であれば比較的聞こえやすいが、オーケストラの中にある場合はなかなか難しい。

ほかに有名どころでは、スメタナ(Bedřich Smetana)の交響詩 “わが祖国Má Vlast)” の中でもとりわけ有名な第2曲 “ヴルタヴァ〔モルダウ〕(Vltava)” も、終始トライアングルが鳴っている。

次に、やはり高い周波数が甲高く響く音となると「楽器」と言えるかどうかは微妙だがメトロノームはどうだろう。近代以降の作曲家リゲティ(György Ligeti =注:出生はハンガリーなので「氏・名」の表記が本来だが後にオーストリアに亡命しているので印欧語族式にした)の100台のメトロノームのための楽曲 “ポエム・サンフォニックPoème Symphonique)” がある。メトロノームを100台使うという点だけで注目されがちだが、きちんとレコーディングされたものを是非聴いてもらいたい。約20分にも渡るが、配置によって微妙に異なって聞こえる音、そしてそれぞれの響き、各メトロノームが徐々に停止していって最後にテンポ60(=1秒に1拍)だけが残る――高域がよく聞こえていないと、これらの音が不鮮明になってしまう。

ほかにも聞き取りにくい楽器という点では、ウインドチャイムが挙げられる。ここからはポピュラー音楽で、ウィンドチャイムをはじめいくつかの打楽器が入っているトト(Toto)の2018年のライヴ盤 “40 Tours Around the Sun” の9トラック目 “Lea” だ。Qobuz のライブラリーにはないようなので、Spotify のみで(高音質で聴きたいという方は CD やブルーレイでもどうぞ)。

以上で紹介しているのはどちらかというと高い周波数が中心となっている音なのだが、実は高音域が聞き取りにくくなると低音の聞こえ方にも影響が出る。すなわち、音には「基音」と「倍音」があって(詳しくは省略するが)、とりわけ非整数次倍音を多く含む音のうち一定の倍音が聞き取りにくくなるとその基音がわかりにくくなることがあるのだ。レゲエ(とりわけそこから派生したダブ)やヒップホップなどといったジャンルのベース音はそうした傾向が強い。実際、ダブ・レゲエのリキッド・ストレンジャー(Liquid Stranger)の2007年のアルバム “The Invisible Conquest” から5曲目の “Drop Sacrifice” を聴いていただきたい。やはり Qobuz ライブラリーには同作品がないので Spotify のみで。

いかがだろう? 冒頭21秒辺りからベースが現れるがその後少しして聞こえるカッティング風のコード(和音)ときちんと合って聞こえるだろうか? もし調子外れに感じたのであれば、それはちゃんと倍音を聞き取れていないということだ。

上記のいずれもしっかり聞こえているという方は、まだまだ耳が若い。他方どれかが聞き取りにくいというのであれば、「難聴」ではないと判定されているとしても高音域の聴力が落ちているということだ。そういう方に改めて問う――満足に音楽を聴けていますか?

AirPods Pro のおかげで音楽を聴くのがまた楽しくなった

投稿者: | 2025-02-28

約10年前から聴力が落ちてきているのは自分でもわかっていた。受け答えに問題があるほどの難聴という訳ではないが細かい部分がうまく聞き取れず、例えば不意に話しかけられてなおかつ想定外の単語を投げかけられたりすると「えっ?!」と聞き返さずにはいられない。そして何より、好きな音楽を聴いても楽しくなくなっていた。一定の年齢になると高音域の聴力が衰えることはよく知られているが、まさにそれ。若い頃によく聴いていた楽曲をいま聴いてもそのころのように聞こえないことに、密かなショックを受けていたのである。

そして、あるテレビ番組をきっかけにさらにそれを強く意識することになった。NHK の “あしたが変わるトリセツショー” で2024年7月18日に初回放送された「難聴かも?聴力低下を放置しない全力対策」だ。音自体はたいてい聞こえているし、健康診断はもちろん耳鼻科で受けるような聴力検査でもそれほど「問題ではない」とされるが、上記で紹介されている「雑音の中では聞こえづらくなる」というのがよくわかる。上記番組では最終的に、「軽度難聴を放置せず、早めに補聴器を使うべし」という方向で結論づけられていた。

その結論自体に異論はない。しかし、補聴器の導入はすこぶるハードルが高い。上記番組で紹介されていたのは海外メーカーのもので、わが国でも一部の眼鏡販売店で取扱いがあることを関堂は確認し、販売店を訪れて同種の補聴器を実際に試させてもらった。確かに高い周波数ほどよく聞こえる(実は、装着した時よりも外した時のほうが「こんなに聞こえていないのか!」とショックだった)。ただ何せ価格が高い。廉価なものもない訳ではないが、高性能の機種は数十万円から100万円もする。しかも一度購入すれば生涯使えるというのではなく、定期的なメンテナンスはもちろん、場合によっては買い換えも必要らしい(その時の販売店の方は、こちらの疑問に対していろいろと親切に教えてくれてありがたかった)。今後の人生を考えるといずれは補聴器をとも思うが、二の足を踏まざるを得ない。

他方それからしばらくして、アップル(Apple)が、そのイヤホン AirPods Pro(正式には第2世代の AirPods Pro =MTJV3J/A= を指し「AirPods Pro 2」と称されることが多いが、ここでは単に「AirPods Pro」と表記する)によって、わが国においても聴覚補助機能を提供するという報道が2024年10月になされた。

それなりにオーディオにこだわっている関堂としては、イヤホンとしての AirPods Pro はそこまで評価はしていない。音質面ではゼンハイザー派だし、耳から白いのが垂れて見えるのは如何とかねてより思ってはいた。しかしこうなってくると話は別だ。「補聴器」とまではいかなくとも「聴力補助機器」が約4万円で手に入れることができるのだから。

この報道に接した際に関堂が期待したのは、現状の補聴器に係るビジネスモデルが変わってくれないか、ということだ。医療機器で消費税非課税とはいえ非常に高額な物を売りつけるというのは如何。だからこそとりわけ高齢者などは「老い先短いのにそんなにお金をかけても……」と躊躇するのだ。開発費・製造費で製品が高額になるのは当然としても、例えば一定期間に一定額を支払うことで使える(場合によっては最新モデルに替えたりメンテナンスもするという)、それこそサブスクリプションモデルを導入してくれないだろうか。AirPods Pro のような製品は、多少なりともその動機づけになるのではなかろうか。閑話休題。


さていよいよここからが本題。最終的な直接のきっかけについては省略するが、関堂も AirPods Pro を購入しようと決意した。家電量販店の通販を利用するなり、あるいは実際にお店を訪れて現品を買うのがより早いのだろうが、ここは Apple に直接注文して刻印入りにした。そして注文から5日後、ようやくそれは届いた。

AirPods Pro の外箱
外箱
刻印入り AirPods Pro
刻印入りにした
AirPods Pro 接続時の iPhone の画面
画面でも刻印が

AirPods は、そのケースを開けるなり近くの iPhone 等のデバイスで認識され、接続を促すことは知っていたが、その画面でもこちらが注文した刻印が入っている(三つ目の画像)。さすがに芸が細かい。アップルの信奉者(悪い意味ではない)は、こういうところが好きなのだろう。早速接続した AirPods Pro を使って聴力の測定をしてみる。

Apple のヒアリングチェックの結果画面

見てわかるように「難聴の可能性はほとんどない」と表示されている。しかし右の図に示されている周波数ごとの値を見てみると、特に右耳は高域の聴力が落ちていることがわかるだろう(実際関堂は、定期健康診断等においてもたびたび「右の聴力がやや落ちている」と指摘されていて承知している)。そして左図の中ほどにあるように、「しかし、聞き取りにくい周波数がある可能性があります」というのが、まさにかねてから関堂が気にしていたことなのだ。そしてこのチェック(検査)結果は、耳鼻科で何度も行っている検査のそれとほぼ一致する。正直言うと「軽度難聴」の判定を期待(?)していたので「難聴の可能性はほとんどない」とされたのはいささか拍子抜けだったが、この機能をすでに試していて同様に「難聴でない」と判定されたことがある人も、いま一度チェック結果を確認してもらいたい。

しかして聴力補助機能を有効にした AirPods Pro を自分の耳に装着。おおなるほど、以前試させてもらった数十万円の補聴器よりはさすがに劣るかもしれないが、聞こえ方はかなり近いイメージだ。

AirPods Pro を装着

さて、この記事の冒頭に「若い頃によく聴いていた楽曲をいま聴いてもそのころのように聞こえない」と書いたことを思い出していただきたい。そう、いまこそその「若い頃によく聴いていた楽曲」を聴く時だ。まず関堂が選んだのは、ヴァーグナー(Richard Wagner)のオペラ “タンホイザー〔パリ版〕(Tannhäuser [Pariser Fassung])” で、プラシド・ドミンゴ(Prácido Domingo)がタイトル役を歌いジュゼッペ・シノーポリ(Giuseppe Sinopoli)がフィルハーモニア管弦楽団(Philharmonia Orchestra)を指揮した1988年録音のグラモフォン(Deutsche Grammophon)盤だ(日本では当時ポリドールから1989年に発売された)。特にこの序曲の途中(スコアでは練習記号 F)からトライアングルとタンブリンが賑々しく鳴り響く。しかも、序曲と第1幕が切れ目なく演奏されるパリ版では、そのしばらく後にカスタネットが入る。かつて聞こえていたはずのこれらの打楽器が、ここしばらくの関堂にはちゃんと聞こえておらず(カスタネットに至ってはほとんど聞こえない)、本当にショックだったのだ。

しかして AirPods Pro を装着して自宅オーディオ・システムで聴くと……

トライアングルとタンブリンのトレモロが、そしてカスタネットが、聞こえる! これは(控えめに言っても)感動だ! しかもそれだけではなく、これまで塞がれていた高域がよく聞こえることによって、オーケストラの楽器の位置や残響もよくわかる(もちろん若い頃はそう聞こえていたはずだが、残念ながら当時所有していたオーディオはそれほどよくなかった)。実はこの作品にはもう一つカラクリ(?)があって、当時のフィルハーモニア管弦楽団では、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に、そしてコントラバスが全体の左側にそれぞれ配置されているのだ(当時の日本盤付属のブックレットでは29ページにレコーディング風景の写真が掲載されており、それを見てもわかる)。

いやとにかく素晴らしい。音楽はずっと好きだったのだから聴き続けていたのだけれども、ここ10年から数年は何となく悶々とした中で聴いていた。しかし AirPods Pro を装着して音楽を聴くと、まるで若い頃に戻ったように楽しく感じられて、どんどん聴きたくなる。音楽熱が再び高まってきたわけだ。

もっとも AirPods Pro についてはまだまだ書きたいこともある。それはまた改めて、ということにするが、とにかく、中年以上の音楽好きには是非一度試してほしい。聞こえづらくなっていることを自覚している人は少なくないと思うが、そのままにしないでほしい。iOS 18 以上が動く iPhone をすでに使っているのであればたった4万円(あえて「たった」と言う)で青春がよみがえるぞ!

音楽サブスクリプション再び

投稿者: | 2024-11-05

かなり久しぶりの更新になってしまい面目ない。書こうと思っているものの、なかなか筆が進まないもので……


さて本題。「使わないから」という理由で2022年12月に Amazon Music Unlimited を解約して以来、音楽のサブスクリプションとは無縁の状態が続いていたが、雑誌の記事等で紹介されていた楽曲やアーティストの作品をちょっと聴いてみたいというときに、やはりサブスクリプションがあったほうが便利な気もしていた。YouTube 等の無償のリソースを探すのは骨が折れる(ゴミのような情報があまりにも多くて検索の質が落ちているのももちろんある)し、音源をダウンロード販売しているサイトでのせいぜい1分程度の試聴では物足りない……かといって楽曲やアルバムを即座にダウンロード購入するわけでもないという場合に、サブスクリプションを頼りたい気持ちが生ずる。

ところで、Amazon Music Unlimited を解約した大きな要因は、以前述べたように①洋楽のカタカナ表記が耐え難い、②自分の音楽ログとしての Last.fm との連携がうまくできない(前記①のカタカナ表記とも関係する)、そして③作品(アルバム)一覧が使いづらい、というものだった。

他方前記のような目的・理由から音楽サブスクリプションへの興味が再燃し始めていろいろ自分で調べたところ、上記①のカタカナ問題は、どうやら Spotify(スポティファイ)では解決できるらしいということがわかった。

Spotify の Windows アプリケーションの画面
Spotify の Windows アプリケーション

すなわち、Spotify のアプリケーションで言語を「英語」などに設定すればよい、ということだ。iPhone(iOS デバイス)では「設定」においてアプリケーションごとに言語が選べるのでそこで、Windows ではアプリケーション内の設定で言語を選択することができる。そうすると、アプリケーション上ではカタカナで表示されるものもあるが、Last.fm への投稿(scrobble)ではちゃんと欧文字表記になっている。それならばとりあえず「耐え難い」ほどではない。ちなみに Last.fm への投稿はすこぶる簡単で、Spotify のアプリケーション(またはウェブ)上で Last.fm への連携を設定(Last.fm のサイトが開き、Spotify の連携を許可するか尋ねられるので許可)するだけだ。これで Spotify で聴いた楽曲は自動的に scrobble される。

また Spotify では、PC のアプリケーションでもスマートフォンのそれでも、検索や一覧がしやすくなっている。とりわけアーティスト名で検索して特定のアーティストを表示した際に、“Popular releases” から “See discography” を辿ることによって、公式アルバムがちゃんと年代順(新しいものが上。もっともリマスター作品などは新リリース扱いで新しいものとして上のほうに表示されることもあるようだ。)に並んでいる。これは Amazon とは大違いだ。それゆえ関堂は、去る9月21日から Spotify の1カ月間の無料試用を開始し、10月以降は Premium Standard で継続することとして利用し続けている。Spotify の弱点は周知のとおり「音質」で、せめて CD 同等(44.1kHz/16bit)の可逆圧縮であればとも思うが、冒頭に述べたような「ある楽曲・作品を買うまでもないが聴いてみたい」という目的上は耐え難いほどではない(むしろ洋楽カタカナ表記のほうがよほど耐え難い)。


こうして関堂の音楽サブスクリプション生活は復活したのだが、ほどなくしてさらに動きがあった。Qobuz(コバズ)がいよいよサービスを開始するという。

Qobuz はフランス発祥の高音質ダウンロード&ストリーミング音楽プラットフォームで、その運営を手掛ける Xandrie S.A. が日本におけるオンキヨー(株)の e-onkyo music 事業を取得したことで、日本でのサービス展開が実現した、という訳だ。実は Qobuz を巡っては、2021年10月にはすでに事業承継がなされいったん昨年(2023年)12月にサービス開始との報せがあったがどういう理由からか延期となっていたところ、とうとう満を持して今年の7月半ばより e-onkyo からのサービス移行、10月23日にプレオープンという運びとなった。

Qobuz の Windows アプリケーションの画面
Qobuz の Windows アプリケーション

関堂はプレオープン当初は静観(e-onkyo 時代の音源の再ダウンロード等も必要なかったので)していてサブスクリプションのストリーミングはあまり使う気がなかったが、どのみち1カ月の無料試用期間も設けられていることだし、ダメならやめればよかろうとのことでストリーミング・サービスの登録もしてみた。

しかして、なるほど確かに音はよい。PC のアプリケーションから DAC 経由でちゃんと 192kHz/24bit の再生もできる。スマートフォンから DAC 経由でのハイレゾ再生はしていない(スマートフォンからはもっぱら Bluetooth イヤホンで聴く)が、スマートフォン・アプリのインターフェイス等はそれなりにしっかりしていそうだ。それぞれアプリケーション内で言語設定ができ、それを英語にすることで、Spotify 同様(アプリケーション上でのカタカナ表記は残ることはあるが)Last.fm への scrobble ではちゃんと欧文字になっている。また Last.fm とのアカウント連携も Spotify 同様至極簡単だ。ブラウザー拡張機能等が不要な点は大変よい。

デノン DCD-SX1 を DAC としてハイレゾ・ストリーミング再生
デノン DCD-SX1 経由でハイレゾ再生

Qobuz の弱点は、高音質ゆえそれだけ扱うデータ量が増え、通信に負担がかかる点だ。スマートフォンのモバイルデータ通信では、MVNO 回線を利用している関堂の環境では、最高音質だと途切れがちになってしまう。また PC のサウンドカード等のハードウェアがハイレゾに対応していない場合は、音が出せないことはないが、せっかくの高音質を活かせなかったり、出力の設定が難しかったりということがあろう。

また、Spotify が多様なデバイスやプラットフォームに対応して、なおかつそれらの間でスムーズに連携できるという大きな利点があるのに対し、Qobuz はその点でいま一歩だ。例えば Spotify には Amazon Fire TV Stick 向けのアプリケーションがあるのに対し、Qobuz のそれはまだない(もしかしたら日本向けにないだけかもしれない)。さらに、Spotify では同一アカウントで使用している複数デバイス上のアプリケーション同士で連携が取れるようになっている。すなわち、PC(Windows)の Spotify アプリケーションで再生しているときにスマートフォン上の Spotify アプリケーションを開くと、PC で再生している旨の表示がなされ、しかもその操作までできるようになっている。これは非常に便利だ。

Fire TV での再生時の Spotify スマートフォン・アプリの画面
Fire TV 再生時の Spotify スマートフォン・アプリ

他方 Qobuz では、実際に Windows のアプリケーションで Qobuz を聴いている際にたまたまスマートフォン・アプリを誤って操作してしまったところ、「現在 PC でアプリケーションが動作しているので操作できません」というようなメッセージが表示されてしまった。これは前記の Spotify と比較するとすこぶる残念な仕様だ。是非この点は改善してほしい。

さらにもう一点 Qobuz での問題点は Last.fm への scrobble においてだ。通常 scrobble は楽曲(トラック)の半分以上または一定時間(約3分)の再生によりなされるのだが、どうやら Qobuz では一瞬でも再生されるとそのトラックは Last.fm にscrobble されてしまうらしい。すなわち、例えばある楽曲を Qobuz で再生している際に途中でいったん停止し、そこからまた再生を再開すると同じ楽曲が2回 scrobble されてしまうのだ(もちろん同様の操作を繰り返すと scrobble も3回、4回となってしまう)。通信環境等により再生がいったん途切れたような場合も同様に scrobble が重複してしまう。これは Qobuz の側でなんとかしてほしいと思う。

そういう次第で、いまのところは SpotifyQobuz との二刀流になっている。ライブラリー(取扱楽曲数)の充実度はそれほど差がない(スマートフォンの Qobuz アプリのレビューではさかんに「日本の曲が少ない」などと書かれているが、関堂にはほとんど関係ない。他方 Spotify のプレイリスト押しつけ機能もまず使わない)と思われるところ、使い勝手という点では前者が、他方やはり音質という点では後者がそれぞれ優位で、どちらも棄て難いところだ。二つのサブスクリプションで1カ月合計が約3,000円……そのぶん CD やダウンロード音楽データの購入が減ると考えると、さほど高いとは言えないかもしれない(まあ Zappa の蔵出し音源はこれからも買っちゃうんだろうけど)。

タモリ倶楽部リマインダー

投稿者: | 2023-06-03

タモリ倶楽部” というテレビ番組がある……いや、かつてあった。主たる出演者は、番組名にも冠されているとおり、タモリさん。ハウフルス(番組制作会社)および田辺エージェンシー(タモリさんの所属事務所)との共同制作で、テレビ朝日が地上波で毎週金曜深夜(土曜未明)に1982年から40年あまりに渡って放送してきたが、テレビ朝日の本放送は今般2023年3月末(正確には4月1日未明)をもって終了した。

関堂は、札幌の実家住まいだった比較的初期の頃からこの “タモリ倶楽部” を好んで視聴していたところ、その後大学生となり関東地方に住んだことで本放送を堪能していた。ところが2005年に大阪に赴任して驚いた。“タモリ倶楽部” が金曜深夜に放送されておらず、他の曜日の丑三つ時あたりに、しかも本来の放送より3カ月から4カ月も遅れて放送され、場合によってはプロ野球中継放送延長の煽りを食って放送があったりなかったりという有様だったのだ’(なお2019年3月までの一時期には、他番組と一括りにされて放送されており、電子番組表を使った録画では前半を飛ばさないと “タモリ倶楽部” を見られないという酷さであった)。

関西一円を放送圏とするいわば準キー局である朝日放送(現・朝日放送テレビ=ABC)がなぜこのような仕打ちを続けていたのか、理由はわからない。「もともとキー局であるテレビ朝日と仲が悪い」だとか、「朝日放送の看板番組である “探偵!ナイトスクープ” がテレビ朝日で虐げられていることへの意趣返しだ」とか、いかにももっともらしい推測もあるが、本来の放送より3カ月以上遅れで、しかも曜日と時間をころころ変えて放送し続ける(そこまでするのならむしろ放送しないでもらったほうがよほど諦めがつく)などという愚行に合理的理由などあろうはずもなく、今となっては単なる嫌がらせとしか思えない。

そういった次第だったので、関堂は自身の Twitter で “タモリ倶楽部リマインダー” という投稿を2011年8月からするようになった(当該投稿一覧)。開始当初は、自分が見逃したり録画し忘れたりすることのないように、自分用のメモたるまさに「リマインダー」として投稿していたのだが、実は関堂の自宅ではその後まもなくいわゆる「全録」タイプのレコーダーを導入したことによって、見逃す心配はまったくなくなっていたのである。ただそのレコーダー導入に前後して、Twitter でフォローし合っているリアルの友人・知人(特に関西在住の)から「“タモリ倶楽部” のツイート、実は見ていて役に立っているよ」とか「サブタイトルもツイートに入れてほしい」などと言われたことがあった。また、同時期に某メールマガジンにおいて「タモリ倶楽部リマインダーを投稿しているツイッター・アカウント」というような感じで紹介されたこともあったようで、なんだか引くに引けなくなったというのもある。そして誰かしらがこうやって発言していくことで、テレビ放送、とりわけ民間放送のそれが地域によって別々にされていて、ある地域の人々はその放送区域以外の放送を(局自身がネット配信でもしてくれない限り)思うように視聴できないという、ネットでコンテンツを享受しうる今日にあっては馬鹿げたこの状況を知ってほしかったというのもあった。

さて10年以上に渡って関堂が続けてきたこの “タモリ倶楽部リマインダー” は、関西での約3カ月遅れの放送もどうやら最終回を迎え、いよいよその役目を終えようとしている。タモリさんもまもなく80歳にならんとしているし、41年に渡って続いた長寿番組とはいえ未来永劫続く訳はなくいつか終了するということは、もちろんわかっていた。しかしあらためてその終了の時を迎えようとしているいま、感慨深いものがある。

“タモリ倶楽部” について、再放送(BS波・CS波でよくやる「一挙放送」も)やネットでのアーカイヴが望むべくもないことは重々承知している(2020年のいわゆるコロナ禍では例外的にやむを得ず再編集の放送もあったが)。いつだったかの新聞記事(?)で読んだ記憶によれば、タモリさんが “タモリ倶楽部” を開始するに当たり局や制作陣と約束したのは「反省しない」ことだったという。番組制作後の「反省会」などはもちろん、過去の放送を振り返って検証するなどまったくなし、「やったらやったで終わり」というその姿勢・スタンスこそが “タモリ倶楽部” なのだと視聴者もよくわかっている。だから、「反省」材料となってしまう再放送やネット配信は絶対ないのだろう。かくいう関堂は “タモリ倶楽部リマインダー” でたびたび「テレビ朝日は TVer 対応を!」と言っていたが、実はそれが無理筋であるということは承知の上だったのだ。

そんな我々ファン一人ひとりの記憶の中だけで保存される “タモリ倶楽部”、ここからは、関堂の個人的な思い出のエピソードを少々紹介したい。“タモリ倶楽部” では、とりわけ1992年以降 “空耳アワー” が名物コーナーとなり、それだけでもしばしば他のメディアに取り上げられることがあるが、ここではあくまでメイン・コンテンツ(?)のエピソードを扱う。


思い出のエピソード三選

まず思い出すのは、かなり昔(おそらく1980年代か90年代)の井上陽水さんがゲストの回で、「神田 “神保町” のアパートの一室で “人望” のない我々が語り合う」というテーマの放送だ。実際どんな内容の話をしていたのかはほとんど覚えていない。井上さんとタモリさんがだらだらと喋って、時折井上さんがあの調子で突如話題を振ったりして、ほんとうにとりとめのない内容だったと記憶しているが、そんな “ユルさ” がまさに “タモリ倶楽部” の真骨頂だとさえいまでも感じるほどだ。

もう一つは「芸能人顔写真麻雀」で、なぎら健壱さんが主たるゲストの回。放送局がキャスティングの際などによく使うとされる “日本タレント名鑑” に掲載されている芸能人の顔写真を麻雀牌に貼ってそれで麻雀をする、という企画ゲームものだった。氏名(芸名)に数字が入っているのを組み合わせたり、同じ事務所に所属している者を組み合わせたりするなどして役を作っていくのだが、参加者の誰だったかが「これ、どれ一つとして関連性がなければ国士無双ですよね?」と言ったのに対し、なぎらさんだったかタモリさんだったかが「絶対なにかしら関連性見つけてやる!」と言ってノリノリで麻雀に興じていたのが最高に面白かった。ロケ場所は当時のテレビ朝日社屋の屋上だったと記憶している。

そして最後に、「芸能人サイン色紙かるた」を挙げよう。かつてフジテレビ社屋があった河田町の蕎麦屋に数多掲げてあった芸能人のサイン色紙をかるたの取り札に見立てて(もちろん実物のサイン色紙ではなくコピーだったであろうが)、読み上げられた情報から芸能人を特定して当該芸能人のサイン色紙(取り札)を取って競う、というやはり企画ゲームの回。サインは崩し字で書かれているものが多いので、芸能人を特定できてもどの札なのか当てるのがひと苦労で面白い、という訳だ。主たるゲストは伊集院光さんだった。「これを取れば逆転優勝」(よくあるパターン)とされる最後の勝負で読み上げられたのが堀内孝雄さんだったところ、伊集院さんが色紙に書かれたフレーズを指しながら「この “ガキの頃のように” って堀内孝雄じゃなかったっけ……」と躊躇しているのに対し、タモリさんが「それは谷村新司だよ」と言うのを受けて伊集院さんが「あ、そっか……」と手を引っ込めるや否やタモリさんが当該札を勢いよく取って優勝した、というオチ。タモリさんはこの手のゲームにはいつも真剣に取り組んで優勝していたが、この回はその手段も含めてタモリさんの面目躍如だった。


いかがだろう。“タモリ倶楽部” ファン各位にもさまざまな思い出の回があるはず。いつか遠い将来、なにかしらの事情変更等によって、“タモリ倶楽部” のアーカイヴが解放されることもあるかもしれない。その日までは、数々の思い出を大切に仕舞っておこう。