去年の9月17日に WOWOW で放送された映画 “Replicas(レプリカズ:2018年)” を見た。想像していたより面白かった。Keanu Reeves(キアヌ・リーヴス)は上手いな。
AirTag 活用法は?
今年は久しぶりに、8月8日から22日まで札幌に帰省したのだが、その札幌滞在中に Apple のデバイス AirTag を一つ購入した。AirTag は最初に発売されたのが2021年春なのでそれからすでに1年以上経つ。その当初は、自分としては特に使い途も思いつかず、さして興味も惹かれず、まったく購入する気はなかったのだが、今般あることをきっかけに俄然使ってみたくなった。まずはその動機を紹介しよう。
帰省するに当たり、多くの人が同様にすると思うのだが、事前に着替え等を実家に宅配便で送る。今回もそうしようと、8日の帰省に合わせて5日に発送手続きをした。ただ、その週の前半には東北・北陸地方で豪雨災害があったことは周知のとおり(当時の報道)。ゆえに集荷の際、ヤマト運輸の担当者から「豪雨災害の影響で遅れるかもしれない」旨の説明があった。
ヤマト運輸のサービスでは、会員登録をしていると、自分が発送し、または受け取るべき荷物のおおまかな状況(位置)がわかる。すなわち、目的の荷物が受取先の営業所に到着しているのか、あるいは配達のために担当者が持ち出しているのか、といったことが把握できるのだ。ところがこの時はいつまで経っても(本来なら実家に到着予定の日の早朝でも)「お荷物をお預かりしました」としか表示されず、集荷を担当する営業所から動いていないように見えたのだった。
結果的に、荷物は予定どおり8日の午前中に実家に着いたのだが、その時まで荷物がどこにあるのかまったく把握できなかった。これは推測にしか過ぎないが、ヤマト運輸の荷物追跡システムが災害等による非常時(例えば輸送ルートが変更になった場合など)には対応できていないのかもしれない。そこで AirTag を思いついたのだった。つまり、AirTag を宅配便で送る荷物の中に忍ばせておくことで、その時々の所在地がわかるのではないか、と考えたのだった。
しかして初めて購入した AirTag、アクティベートといくつかの設定をし、大阪に送り返す荷物の中に入れておいた。25日(木)の発送手続の後、AirTag の位置を確認してみると実家近所の営業所と思しき場所にしばらくあったが、その晩には厚別区の札幌ベースに移っていた。……とここまでは順調に見えたが、その後翌朝になってもその札幌ベースから動く気配がない。そしてその金曜日の晩にまた確認してみると、今度は羽田空港にほど近いヤマト運輸の羽田クロノゲートベースにあった(下記画像)。
しかしまたここからまったく動かない。予定では土曜日の午後に大阪の自宅に到着するはずなのだが、と訝りつつも AirTag の位置を土曜日の昼頃から確認してみると……自宅の近所にある。どうやら配達担当者が持ち出しているのを捕らえていたようだ。そして無事に予定の時間帯に到着(毎度のことながら、ヤマト運輸のみならず宅配業関係者のみなさんには頭が下がる)。
さて一方の AirTag だが、輸送中の荷物のリアルタイムの位置を把握できたかという点では、少々期待はずれな結果に終わった。上記のとおり、要所要所では位置を確認できたものの、その間の移動の様子はやはりまったくといっていいほどわからない。そこでいま一度 AirTag の仕組みはどのようになっているのだろうかと、Apple のウェブサイトで調べてみると次のような記載がある。
あなたのAirTagは、近くにある「探す」ネットワーク上のデバイスが検知できるように、安全なBluetooth信号を送信します。すると、信号を受け取ったデバイスは、AirTagの位置情報をiCloudに送信。あなたは「探す」アプリを開いてマップ上で確認できるというわけです。このプロセスは完全に匿名で行われ、情報は暗号化されるので、あなたのプライバシーは守られたまま。効率も良いので、バッテリー残量やデータ使用量を心配する必要はありません。
https://www.apple.com/jp/airtag/
なるほど、要は Bluetooth が有効な近距離内(おおむね10m前後まで)に AirTag の情報を処理できるデバイス(iPhone や iPad など。一部 Android 端末も対応しているようだが)が存在しなければならない、ということか。そうなると、運送会社のゲートベースのような拠点でいったんは確認できても、その後何らかの対応デバイスを所持した人が近づきでもしない限り、荷物の所在を認識できないということになるのだ。
そういう次第で、宅配便でやりとりする荷物の追跡に AirTag を活用することは、少なくとも現状では適さないと言えそうだ。では、せっかく一つ購入したこの AirTag、これからどうやって使おうか? まずは、裸のままの AirTag は持ち歩くにしても何かに取り付けるにしても扱いにくいので、キーホルダーにもできるようなケースを Amazon で物色、FREESE(フリーゼ)という革小物ブランドのものを購入してみた。
さて問題はここからだ。さしあたり普段持ち歩くカバンにこのタグをつけておこうと考えているが、AirTag の機能を十分に利用するにはどのような使い方がよいのだろう? 航空機搭乗で手荷物を預ける際に当該手荷物につけておくというのは想定しやすいが、こちとら飛行機に乗るのはいまや年に一度の帰省のときぐらいしかない。何かもっと有効な利用法を自身でなさっているとか知っているという方には、是非お教えいただきたい。
George Benson “Weekend In London”
基本データ
- アーティスト:
- George Benson
- タイトル:
- Weekend In London
- レーベル:
- Provogue
- リリース年:
- 2020年11月13日
レビュー
- 音質 ★★★★★★★★★☆ (9)
- 曲目 ★★★★★★★★☆☆ (8)
- 演奏 ★★★★★★★★★☆ (9)
- 雰囲気 ★★★★★★★★★★ (10)
ソウル・ジャズのギタリストして、またラヴ・バラードでは甘い歌声を聴かせるブラック・コンテンポラリーのヴォーカリストして、どちらにも名を馳せる George Benson(ジョージ・ベンスン)が、2019年に英国ロンドンの名門 Ronnie Scott’s Jazz Club で行われた公演を録音し、翌年リリースしたライヴ盤である。
ベテランの名演とは、まさに本作のような演奏を言うのだろう。Benson 自身はもちろん、他のミュージシャンも一様にリラックスしているのが音からもよくわかる。それでいてテクニックは確かなのだから、さすがだ。特に Donny Hathaway(ダニー・ハサウェイ)の名曲 “The Ghetto” のカヴァーは、本家のような(12分にも及ぶ)熱量溢れる演奏とはまた異なり、落ち着いた雰囲気ながら聴く者をグイグイと乗せてくるグルーヴがたまらない。
曲目は、上記の “The Ghetto”(Benson はスタジオ盤でもカヴァーしている)を含め Benson のベスト・トラックともいうべき粒揃いの楽曲ばかりだが、彼の長くかつ充実したキャリアからすれば、もっと収録曲があってもいいように思われる。収録時間も全体で1時間15分足らずと、ライヴ盤としてはやや短めだ。そうなると、本作には果たして当日演奏された楽曲のすべてが収められているのか、という疑問が浮かぶ。この点について、さまざまなアーティストのさまざまな公演におけるセットリストを記録した情報共有型ウェブサイト setlist.fm で調べてみると、本作の公演は残念ながら掲載されていないようだが、同時期以降の Benson の公演がいずれも合計1時間30分に満たない程度であることから判ずるに、本作には公演での全楽曲が収められているのだろうと思われる。
さて本作の音質だが、これは素晴らしい。周波数スペクトラムの画像でもわかるように、最低域にピークがあって、最高域までほばまんべんなく音が記録されている。またバランスも非常によい。ダイナミック・レンジもポピュラー音楽としてはそれなりに確保されている。
さらに、観客の雰囲気も十分に捉えられている。本作の公演が行われた Ronnie Scott’s Jazz Club は250人程度収容のクラブだそうだが、その「近い」観客の様子も見えるような録音だ。オーディオ・リファレンスにもよい音源だろう。
Covid-19 が世界的に蔓延する前の、そう大きくない粋なライヴ・ハウスにて、とてもよい雰囲気の中で行われた、熟練による名曲群の名演奏を、最高の音質で収めた名盤。そんな謳い文句でも霞みそうな名「ライヴ盤」が本作だ。
Frank Zappa “Halloween 77”
基本データ
- アーティスト:
- Frank Zappa
- タイトル:
- Halloween 77
- レーベル:
- Zappa Records / UMe
- リリース年:
- 2017年10月20日
レビュー
- 音質 ★★★★★★★★☆☆ (8)
- 曲目 ★★★★★★★★☆☆ (8)
- 演奏 ★★★★★★★★★☆ (9)
- 雰囲気 ★★★★★★★★☆☆ (8)
Frank Zappa が1970年代半ばから1980年代前半にかけて、その時々のバンドを率いてほぼ毎年のように行っていたハロウィーン・コンサートのうち、“Halloween 77” の題名が示すとおり、①1977年10月28日第1公演、②同日第2公演、③10月29日第1公演、④同日第2公演、⑤10月30日公演および⑥10月31日(ハロウィーン当日)公演を収めた作品である。本作には頒布形式が2種類あり、一つは上記⑤および⑥のハイライトで構成された CD 3枚組(公式リリース番号は110K)だが、もう一つは ハロウィーン用仮装道具が入ったボックス・セット(公式リリース番号110)で、同梱された USB メモリーに上記①~⑥全公演の全楽曲が 44.1kHz/24bit の WAV データで収録されている(後者は限定生産ゆえ現在では中古でないと入手困難)。
六つの公演の各セットリストは、のちにアルバム “Sheik Yerbouti” に収録される楽曲を中心におおむね共通しているが、例えば10月30日公演では “Dancing Fool” の世界初演(World Premiere)や “Jewish Princess” の試作版(Proto Type)が含まれていたりするし、31日のハロウィーン当日は観客も一段と盛り上がっていて、飛び入り参加などもある。こうした点から、似たような選曲でも細かい演奏やノリの違いを感じとれるところは面白く、さすが Zappa だ。
この頃のバンド のことを、それを率いる Zappa はしばしば “rockin’ teen-age combo” と称して紹介している。実際にメンバーがみな10代ということではないのだが、他のどの時代のバンドよりもロック色が強く、確かに若々しい感じがする。これについては、とりわけドラムスとヴォーカルを担当する Terry Bozzio(テリー・ボズィオ)の寄与するところが大きく、ツイン・バスドラムを活かした彼のスピード感溢れるフィルインとパワフルなビートは、ロックのドラム・プレイとしても一流だ。その一方で、Bozzio はもちろん他のメンバーも Zappa の超技巧的難曲を再現するのに十分な力量を備えている。このことは各公演での “The Black Page #2” あたりを聴くとよくわかるだろう。
音質は、ロック音楽としては一般的な音作りだが、リマスターされているのか、過去に同じ音源を素材として制作された “Baby Snakes”(1983年)よりもしっかりと重厚感を増しつつクリアネスも上がっているようだ(ダイナミック・レンジも平均で9を得ている)。
本作は、「Zappa は難解でノレない」というロック好きの人には是非一聴してほしい(それでも一般的なロックとはそれなりに異なるのだが)。さすがに6公演全部となるとマニアックになるが、ハイライトの CD 3枚組でも魅力は十分に伝わるはずだ(なお、サブスクリプションでの配信は、本作は残念ながらなさそうである)。
- Amazon でこの作品を確認する (ただし入手困難)
Yellow Magic Orchestra “Public Pressure”
基本データ
- アーティスト:
- Yellow Magic Orchestra
- タイトル:
- Public Pressure
- レーベル:
- Sony Music Direct
- リリース年:
- 1980年2月21日(オリジナル)
レビュー
- 音質 ★★★★★★★★☆☆ (8)
- 曲目 ★★★★★★☆☆☆☆ (6)
- 演奏 ★★★★★★★☆☆☆ (7)
- 雰囲気 ★★★★★★☆☆☆☆ (6)
日本におけるテクノ・ミュージックの祖ともいうべき Yellow Magic Orchestra(イエロー・マジック・オーケストラ: YMO)の通算3作目にして初のライヴ盤。関堂は中学生になったばかりの1981年頃から YMO に夢中になった。それまでも歌謡曲のシングル盤(EP)を自分で買ったことはあったが、本格的に音楽にのめり込んでアルバム(LP)を集めるようになったのはやはり YMO からで、ゆえに本作は関堂が買った初めての「ライヴ盤」ということになる。
YMO は1978年に日本で活動を開始し、その翌年1979年にはアメリカでもデビューを果たす。それを受けて欧米ツアーを敢行、その中の複数の公演の抜粋を収めたのが本作だ。しかし「ライヴ盤」とはいっても LP 1枚こっきりで収録曲は実質8曲、合計45分にも満たず、「コンサートを再現する」にはほど遠い。とはいうものの、本作には十分に意義がある。まず、当時の日本の音楽界では欧米市場に打って出る存在などほとんど皆無だったところ、まして「テクノ」という新しい分野での「日本発」というアピールに対して、欧米の聴衆がどんな反応を示したのかがよくわかる。また当時は、普通の電気(エレクトリック)楽器を用いるコンサートでさえそれなりに大変だったのに、いまとは比べものにならないぐらい性能も低く巨大なコンピューターやシンセサイザーを大々的に使った楽曲の、しかも「ライヴ・ヴァージョン」を供することがどれほど困難であったか……本作からそれが偲ばれようというものだ。そういった意味で、本作の選曲(収録曲数をも含めて)には少々不満があるが、多少割り増しして捉えたい(なお本作収録のコンサートは、後述するギターの音も含めて後にほぼ完全な形で “Faker Holic” と題されてアルバム化されている)。
本作における演奏では、当時からよく知られた重大な問題点がある。この欧米ツアーでは、YMO の正式メンバー3人(細野晴臣、坂本龍一および高橋幸宏)のほかにサポート・メンバーとして矢野顕子(keyboard, vocal)、渡辺香津美(guitar)および松武秀樹(manipulator)が帯同し、本作でも演奏していたのだが、渡辺のギターについては彼の所属レコード会社との契約の関係で収録することができず、特にギター・ソロ部分については後から坂本が別途シンセサイザーでソロを弾いてそれを収めたのだった。渡辺のギターが聴けないことに加えて別途オーバーダビングがなされているという点から、演奏・雰囲気でいささか寂しさを思える。
また、YMO のコンサートでは、各演奏者はそれぞれコンピューターの自動演奏との正確な同期を図るため、外部の音を遮断してヘッドフォンを装着していた。いまでこそさりげなく耳穴を塞ぐインイヤー・モニターが当たり前のように使われているが、当時は耳全体を覆う必要があり、その姿で演奏するのはある意味彼らならではの様子だった。それゆえ彼らは基本的に、観客の反応を聴覚で捉えることができず、勢いポピュラー音楽にありがちな観客とのやりとりは困難になる。そのためもあって、彼らの公演は曲目やメンバーの紹介もせず、淡々と進行するのが一般的であった(テクノ音楽では Kraftwerk もやはり同様に淡々としたステージ進行をしており、熱いロックなどと違ってクールな音楽ジャンルゆえ、というのもあるかもしれない)。いずれにせよ、本作においてはライブの高揚感というのはあまり感じられないものになっている。
本作の音質についても触れておこう。下の画像の周波数スペクトラムは、2019年に Bob Ludwig(ボブ・ラドウィグ)がリマスタリングを施したハイレゾ・データ(96kHz/24bit)による。かつて中学生の時に聴いた際にも(華やかな音を前面に出した他のポップスなどと比べて)なんとなく暗い音作りだなと思ったものだが、確かに90Hzから10kHzにかけてはピークとディップが細かく入り交じっているものの、10kHzを超えたあたりからはなだらかなカーブを描いていてあまり動きがない。その一方で、20kHz超でも後から取ってつけたような人為的な波形になっておらず、このハイレゾ・データが本当にアナログ・マスターから作られたのであろうことを推察させる。ダイナミック・レンジもアルバム全体で7と、最近のポピュラー音楽の音源としては平均的で音圧もまあまあだ。
本作は、上記のようにさまざまな困難や制約の下で制作され、提供されたライヴ盤であったことがおわかりだろう。しかしだからこそ挑戦的で、いまなお「テクノ・ミュージックにおける最初期のライヴ・アルバムの一つ」としての意義・重要性を保ち続けているとも言えるのではなかろうか。